宮内優(陸上コーチおよび庭師)
「若手の庭師の方」ということでご紹介頂いた宮内さん。実際は陸上選手として所属していた実業団を退職し、陸上コーチとして独立するなかで収入をサポートするために始めたところ、庭師の仕事も楽しくてはまってしまい、今はすっかり複業(パラレルワーク)状態とのこと。
そして、インタビュー時には二足の草鞋生活について、楽しそうに語ってくださった宮内さんですが、後日当サイトに掲載する陸上教室のウェブサイトを送っていただいたところ、そこにはバンクーバーオリンピック出場(ボブスレー)の文字が……。インタビューでは1mmもそんな話は出ておらず、いかに陸上と造園業を楽しく両立させていくかに集中されているかが分かりますね。
プロフィール
小学生の時に陸上競技に出会い、高校生から投擲競技(砲丸投、円盤投、ハンマー投)を始め、そのまま実業団の選手として株式会社モンテローザに10年勤務。引退&退職後、自営業として小学生に陸上競技を教えるコーチと木を整える造園業との二足の草鞋を履き、日々奮闘中。
二足の草鞋を履くまで
――庭師の方とご紹介頂いていたので、陸上コーチとの「複業」とお聞きして驚きました。
実際のところは、陸上コーチが先です。子どものころに陸上競技を始めて、高校時代も陸上競技にどっぷり浸かり、陸上の推薦で大学に進学しました。そして卒業後は実業団へと進み、退職すると同時にコーチ業を始め、庭の仕事はそれまで全く頭にありませんでした。
質問 実業団での競技と仕事の両立というのは、どのような感じなのですか?
私が所属していたのはモンテローザという居酒屋のチームでしたので、日中はみっちり練習して、週に3日ほど居酒屋が営業する夜に5~6時間働くという勤務形態でした。
10年ほど勤めましたが、年齢により思うように記録を出せなくなり引退し、それと同時に退職することにしました。
質問 居酒屋の仕事をそのまま続けるという選択肢はなかったのですか?
サービス業は自分に合わないと感じていましたので、退職を選びました。自分の武器は陸上競技であって、それを活かす仕事は何かといったら、やはりコーチ業だろうと。
運動能力は、ゴールデンエイジと呼ばれる9~12歳に著しく発達するのですが、この時期にどれだけのことをさせてあげられるかが大事なのです。それを知ってからは、その年頃の子ども達のお手伝いをしたいとずっと思っていたので、やるなら子ども向けの陸上教室にしようと考えました。
質問 宮内さんは組織に属さずフリーランスでコーチ業をしていますが、最初からフリーランスにしようと思ったのはなぜですか?
陸上のコーチ業と言っても幅が広すぎて、自分がやりたいことを探している時間がもったいないと思ったためです。自分の中に「こうやって教えたい」というのが明確にありましたので、1人でやった方が早いと考えました。
質問 何がきっかけで庭師の世界に?
コーチ業も、駆け出しの頃は収入がありませんので、それを補填するために「何か仕事はないか」と先輩に相談したところ、庭の仕事を紹介されたのがきっかけです。何の知識もありませんでしたが、やってみたら初めてのことばかりで楽しく、あっという間に時間が過ぎて、手伝いからもう一足の草鞋になっていました。陸上をしていて体力には自信がありますしね (笑)。
陸上コーチという仕事
質問 陸上コーチとしては、どのように仕事をしているのですか?
基本的に放課後の週3日、陸上競技を軸に、1~6年生までの小学生に運動の基礎を指導しています。時折、市区町村のイベントや学校の授業で声がかかり、指導することもあります。
質問 コーチ業が軌道にのるまでに苦労はありましたか?
場所の確保と集客に苦労をしました。
場所については、教室業つまり営利目的で使える競技場がなかなか無くて困りましたね。今は野球場を使っています。
そして、陸上教室を認知してもらわないと始まりませんので、ビラ配り、ポスター張りなどが大変でしたね。ホームページも作りましたが、ネットの力は強いです。また生徒が集まり始めたら、口コミもやはり強いなと感じましたね。
質問 陸上コーチをするのに必要な資格はありますか?
基本的にライセンスはなくてもコーチ業はできますが、私はJAAF(日本陸連)公認ジュニアコーチライセンスと、IAAF(国際陸連)公認CECSレベル1を取得しています。
これらは、2泊3日の研修を受け、試験(筆記と実技)に合格すれば取得できます。日本陸連の方は広く浅くですが、国際陸連の方は幅広く深くという感じですので、より専門的になりますね。私のように元々競技をしていて、それ以外の競技も体験してルールなども知っていれば、少し改めて勉強すれば合格できるかなという感じです。
質問 あると優位なスキルやキャラクターはありますか?
生徒1人1人に寄り添える心と耳、そして全体を見渡せる視野が必要だと思います。
キャラクターとしては、子供たちに愛されるキャラクターであればいいかなと思います。例えば、いつもニコニコしていて物腰が柔らかい方が、子ども達も受け入れやすいですよね。エキスパートを育てようというクラブチームは、昔ながらの鬼コーチみたいな方もいますが(笑)、今はそういう方も大分減っていて、子どもの気持ちに寄り添う形になってきています。
質問 コーチ業をしていて楽しいことは何ですか?
子ども達がそれぞれの課題に向かって努力している姿を見たり、その課題が達成できたときの喜びを共に分かち合えたりすることですね。
2ヶ月に1回50m走のタイム測定をするのですが、頑張ってきた子はそこでタイムがグッと伸びるし、ふざけてやっている子は伸びない。成果は明確に表れるのですが、そこでどういう声かけをしていくか、コーチとしては非常に気を使いますね。
庭師という仕事
質問 庭師の仕事について教えてください。
庭の仕事は週に6日、庭の木を切って整えたり草を抜いたり、消毒したり新しく石を置いたりして、庭を作っています。朝7時に家を出て、18時頃に家に帰ってくる生活で、月・水・土曜は15時ぐらいからコーチ業をしているので、造園の仕事をした後に向かう感じですね。
質問 コーチ業と同じように庭師も個人事業主なのですか?
そうです。基本的に個人のお宅の仕事が多いので、1人で足りる現場が多いです。規模が大きい現場であれば、同じようにフリーランスの庭師に声をかけ、集まって仕事をしています。
――てっきり、庭師というのは造園会社に所属して、技術を教えて貰いながら下積みの時代を経て仕事をしているのかと思っていました。
造園会社に勤める形での庭師が一般的なのかもしれませんが、自分の場合は出会いが先でしたので。自分の先輩が庭師をしていて、そのつながりで個人事業主として働く親方のところへ、誰でもできる作業の手伝いとして行くようになり、その流れで始めたので自分も個人事業主です。
下積みは、その親方の元で道具の準備や切った植木の片づけから始まって、徐々に仕事を覚えていきました。
質問 女性もいますか?
いますよ。コロナで増えたと聞いています。時間に縛られる業種ではなく、自分でペースを決めてやっていけるので、私は良い職業だと思いますよ。
女性に限らず、造園はハードルが低いのか、前職では様々な仕事をしていた方が参入してきます。常に勉強している感覚がありますが、年齢も関係なく、いつでも入りやすい職業ですね。私は親方と2人で作業することが多いのですが、その親方も75歳です。現役バリバリで梯子を上っていくのですが、造園の仕事は長く続けられる仕事だと思います。まぁ、夏の暑さは厳しいですけれども……。ただ、長めに休みを取ったりできて、自営業なだけに融通が利きやすいのはメリットです。
質問 造園業に繁忙期はありますか?
お盆や年越し前ですね。日本人として、気持ちよくお盆を迎えたい、新年を迎えたいという方が、世の中には多いということですよね。
質問 造園業をするのに必要な資格はありますか?
造園施工管理技士や造園技能士という国家資格があり、私も取得しようと勉強中です。
こうした資格があれば、入札が絡むような大きな現場を受けることができるようになります。資格がないと入札に参加できないんですね。大きな会社の方だと、こういう資格を持っている方が多いですね。
質問 こうした資格を取得して大きな現場にチャレンジしていくところなのですね?
いえ、私の場合は本当に造園に関してド素人でしたので、植木の知識を入れたいということで勉強し始めました。大きな現場のためではないです。
質問 あると優位なスキルやキャラクターはありますか?
スキルとしてはたくさんありますが、強いて言うなら常に警戒できるかですね。造園業は高いところでの作業中に枯れ枝が折れて落下したり、作業中にいきなりスズメバチに襲われたりなど、様々なハプニングが起こりがちです。「こうなるかもしれない」と予測し、対策をしておくことがとても重要な職業です。
あとは、臨機応変に対応できて、真面目に黙々と作業するのが得意であれば最高ですね。
質問 造園業で楽しいことは何ですか?
たくさんの仲間たちと会話をしながら、また教え合いながら作業をするのが楽しく、時間があっという間に過ぎていきます。
また、木の剪定をしている時に自分の思い描いた完成図に、より近づく事が出来たときも嬉しいですね。
質問 逆に苦労されていることは何ですか?
コーチ業もそうですが、常に外で作業しますので、暑さ寒さを凌げる場所がないのが辛いですね。それなりに対策はしていますが限度がありますので、毎年の課題です。暑い日は空調服を来て、冷却スプレーを駆使したり保冷剤をポケットに忍ばせたりしながら、寒い日はヒーターベストを着ながらカイロをポケットに忍ばせています。
ただ辛いとはいえ、毎日お弁当を外で食べる生活はそれまで経験したことがなく、毎日ピクニックみたいでおすすめですよ(笑)。
フリーランスとしてコーチ業と造園業をかけもちして思うこと
質問 実業団を辞め、陸上コーチと造園の仕事を8年やってきた中で、何か思うことはありますか?
とにかく自分らしくいようと考えています。後になって気づいたことですが、前職では自分らしさを押し殺して勤務していました。大きな組織の中で動く窮屈さがありましたね。それに対し、今は自営業ですので自由です。ミスは全て自分の責任ですが、その方が受け入れやすいですし、今後も1人で造園業をやっていきたいと考えています。
質問 資格を取得して大きな仕事をできるようになったとしても、1人で続けますか?
そうですね。コーチ業もやっているので、私にとってはフットワーク軽く身動きがとりやすいというのが重要です。が、スタッフを抱えたり会社にしたりすれば、そういう訳にもいかなくなりますので、今後も1人でやっていくと思います。
質問 陸上コーチや造園業は稼げますか?
1人では決して大金持ちにはなれませんし、需要がなければ意味がないので、そこを事前にリサーチする必要はあります。元は会社員でしたので、税金などの仕組みについてかなり疎いところはありましたが、自営業を始めてから全て自分でやらなくてはいけなくなりました。初めは大変でしたが、社会でうまく生きていくために絶対に必要な知識を学べて、良かったと思っています。
質問 宮内さんの生き残り戦略について教えてください。
草木は無くなりませんし、親が子どもの健康を願うことは当たり前だと思っているので、造園業も陸上コーチ業も無くなっていくことはないと思っています。
ただし、どちらも質をあげていかないと生き残れないとは考えているので、どちらも積極的に新しい情報を吸収し、免許を取得したりしてやっていくつもりです。
宮内さんから、子ども達へのメッセージ
今たくさんの情報が世の中には溢れかえっています。それに翻弄されず、経験した気にならず、どうか色々なことを自分で経験して、少しずつ成長していって欲しいなと思います。そのほうが人間として厚みが出てくると私は信じています。
皆さんのこれからに大いに期待しています!
宮内さん、ありがとうございました!