大貫剛さん(科学ライター)

現在フリーの科学ライターをされている大貫さんは、東京都の土木技術職員をされたあと、宇宙ベンチャー企業に転職、その後に独立してライターになったという経歴の方。土木から宇宙に行って、ライター?と頭の中が疑問符だらけでしたが、お話を伺うことで繋がりました。昔から興味があることを、長年ずっと追求し続けていている方で、目指すは「宇宙旅館」。そんな大貫さんですので、今回はライターという職業についてのお話だけではなく、自治体での土木技術職について、また宇宙ベンチャーで直面した理想と現実問題など、興味深いお話をたくさん聞くことができました。
最後に盛り上がったのは、学校の勉強は役に立たないと言う人は、役立てられなかっただけ…という話。どんな職業を選ぶにしても、最低でも義務教育レベルは押さえないと人生を楽しめないし、他者から搾取されてしまう。好きなこと・興味のあることを追求しながらも、最低限の勉強はしましょうと。大人になると、なぜあれが推奨ではなく「義務」なのかが分かるのです。

プロフィール

1973年東京生まれ、科学ライター(宇宙・航空など)。
大学時代は鳥人間コンテストに出場するサークルで活動。大学卒業後、東京都庁で土木職技術職員として11年間勤務。その後、ベンチャー企業勤務を経て、現在はフリーランス。
宇宙開発に関するニュース記事や書籍を中心に、スカイスポーツや公共事業に関する記事も執筆。

マイナビニュース「大貫剛の記事一覧

書籍「ゼロからわかる宇宙防衛

新卒は都庁で土木技術職員、週末の趣味は空

質問 ちょうどNHKの朝ドラで鳥人間コンテストが取り上げられていましたが、大貫さんも大学時代にやられていたということで、子どものころから憧れていたのでしょうか?

はっきり意識して憧れていたというよりは、いつのまにかそうなっていた感じです。僕は早稲田大学に付属高校から進学しているんですが、高校を選ぶ際に、あまり大学のことまで知らない中学生なのに「早稲田」を選んだのは、早稲田大学の学生チームが鳥人間コンテストに出場していて、それが強く印象に残っていたからなんです。テレビでコンテストを見ていて、早稲田大学の人達って面白いなと。応援団もハイテンションでバカバカしいのに、飛行機は良く飛んで、その後に泣きながら抱き合って喜んでいる。全力でバカをやっている面白さが伝わってきました。

高校では普通に体育会系の部活をし、大学に進学したときに、新入生の勧誘活動をしているサークルの中に鳥人間があって、そのまま自然と入っていましたね。早稲田にしろ鳥人間にしろ、「絶対に早稲田!鳥人間!」と思っていた訳ではなく、なんとなく…です。


――航空や宇宙が専門のライターをされているので、鳥人間にも強い憧れがあったのだと思っていました。

自分の世代のアニメと言えば「宇宙戦艦ヤマト」「ガンダム」ですので、子どもの頃はエンジニアや科学者に憧れ、飛行機や宇宙が好きでした。
けれどももう一つ、まちづくりにも興味があったんですね。大学に入るときに選んだのは土木工学科で、卒業後に東京都庁で土木の技術職員として11年間勤務しました。仕事は土木なので地べた、趣味は航空・宇宙で空という生活で、卒業後も大学の鳥人間サークルには関わっていましたね。


質問 都庁の職員としては、どのような仕事をしていたのですか?

自治体の土木技術職員というのは自分で穴を掘る訳ではなく、計画を立てて予算を管理し、建設会社に発注したり住民への対応をしたりします。土木にまつわる仕事の全体が、うまく回っていくように管理するのが仕事です。技術者ではあるけど、技術を分かっているコミュニケーターという役割ですね。


宇宙ベンチャーに転職した後、フリーライターへ

質問 そこから宇宙ベンチャーに転職されたそうですが?

いま宇宙ビジネスが盛んですが、その前の2000年前後にも宇宙旅行ブームがありました。「ペプシを飲んで宇宙に行こう」というのがありましたよね。あれから20年経ってようやく宇宙旅行が実現し始めましたが、どうしたら宇宙旅行に行けるかということで、当時は世界的に研究開発やビジネスが盛んになったんです。

僕は当時から宇宙旅行に興味があって、宇宙ビジネスに興味がある人で集まって話をしている中で、公務員ではない方向に進むのも面白いと考え始め、都庁を辞めて、当時の仲間の人工衛星のベンチャーに入りました。その会社では大企業の下請けとして専門性の高いことをしていたのですが、僕はもっと新しくて面白いことをしたいと考えていたので、しばらくしてから独立することにしました。会社が嫌で辞めた訳ではないので、その仲間とは今も仲良くしていますよ。

ベンチャーに入るときには理解が足りていなかったのですが、大きな会社から仕事を受けているベンチャーは、会社を回すために現実的な仕事でしっかり稼がなければなりません。が、僕は新しいことがしたかった。新しいことというのは最初は儲かりませんから、結局会社の中で始められませんでした。やはり新しいことをするなら、他人の会社の中ではなく自分の責任でやるべきだと考え退職したんです。そして、会社でできないことを自分一人になったらできるかといったら、できなかった。公務員とサラリーマンしかしたことがありませんから、起業するにしても、どうしたら仕事になるのか分かりませんでした。

そうして1年ぐらい収入がなく困っていたときに、自分のSNSを読んでいたライターの方から、ライターをしないかと頼まれたんです。それが、フリーライターを始めたきっかけです。


質問 では、ゆくゆくは元の宇宙ビジネスの世界に進もうと考えているのですか?

そうですね、やろうと考えて仕込みをしている状態です。昔と違うのは、自分はエンジニアではないから技術をベースにした起業はできないし、経営者でもないので人を雇うような起業もできないけれども、アイディアを出して人を集めることはできるなと。起業にも色々な形があって色々な形で参加することができますから、ライター業で築いた得意分野を軸としたやり方でやろうとしています。
またライター業によって、顔や名前が売れて、信頼を得て人脈もできたので、ライター業はまわり道だったかもしれませんが、宇宙ビジネスの中では単なるマニアやオタクだった自分が、結果としてその中で得意分野やポジションを作ることができたので、長い人生の中で無駄ではなかったと思います。

そういう本流ではないまわり道をしてできたキャリアというのは、他に同じような人がおらず、そのユニークなスキルは重宝されます。本流の人というのは、母数も多いですから。


質問 大貫さんの場合は、土木技術者だったことが今の仕事でどう役立っていると思いますか?

技術系の話は難しく取っつきにくいのですが、僕はそれを誰にでも分かる言葉で、興味を引き付けるように書くことを得意としています。それは公務員経験が原点な気がします。例えば何かを説明するにしても、「全て」の住民に理解して貰えるよう説明しなければなりません。話についてこれない人はいいですよという訳にはいきませんし、中には反対派もいますので、丁寧に合意を得ていく必要があります。そこから、技術用語を使わずに誰でも分かるように解説する力がついたと考えています。


フリーライターの仕事

質問 ライターの仕事について教えてください。

大まかに言うと、取材をして文章を書くことです。ネットニュース会社と契約して記事を書く、出版社と契約して雑誌記事や書籍を書く、企業や団体から依頼を受けて広報のWebページやパンフレットの文章を書く、といった仕事があります。

記事は、独自に取材して書く場合や、記者会見など広報側から招かれたものを取材する場合、単独インタビューをする場合などがあります。

僕の場合は、取材と文章書きが交互です。日数で言うと取材より文章を書いている日の方が多いですが、忙しい人だと毎日のように取材をしている人もいます。文章書きの仕事はどこでもできるので、自宅やカフェ、コワーキングスペースなどでやっています。 またフリーランスなので、経理などの事務仕事も全て自分でやっています。


質問 必須のスキルや資格はありますか?

資格はありませんが、フリーランスになる前の仕事の経験は役立ちますし、評価もされると思います。僕の場合は土木の技術職をしていたことや、宇宙ベンチャーで働いていたことですね。フリーライターは、他の業界から転身した私のような人もいますが、出版社から独立した人が一番多いと思います。

学校を卒業していきなりフリーライターだと、いろいろな意味で社会経験が不足して、ものごとの見方や考え方、文章の書き方などが育たないと思います。そして、どんな社会経験を経てライターになったのかによって、ライターのキャラクターも大きく変わってくると思います。
卒業していきなりフリーライターになりたいと考える人は、何かのマニアで、SNSで発信していたりするような方だと思いますが、その延長線上でフリーライターになろうとすると大変だと思います。ライターではありませんが、以前、飛行機の写真を撮るカメラマンになりたいという高校生と話したことがありますが、私が名前を知っているようなプロの航空カメラマンは、日本では一桁ぐらいしかいません。航空機に大きなレンズを向けている人はたくさんいますが。お金になる人との違いはなんだろうかと考えると、カメラで写真を撮るだけでなく、いろいろなスキルを持っているんです。カメラマンでもライターでも、フリーになる前の仕事が役に立ちますし、仕事をする、つまり「仕事を得ていく」には、コミュニケーションスキルも必要です。


質問 あると優位なスキル、キャラクターはありますか?

ライターにもいろいろな方向性があるので、どのような文章・記事を書くかによって違うと思います。僕の場合、ものごとを見聞きしたり、人の話を聞いたりするのが「楽しい」ということを伝える記事を目指しているので、まず自分自身が「楽しい」と感じることを大切にしています。
先ごろエアレースの室屋義秀選手から依頼を頂いて広報の記事を書いたのですが、指名されるということは、自分自身がエアレースが大好きで、楽しんできたことを評価してもらっていると感じています。アクロバット飛行はショービジネスですから、楽しさが伝わることが第一ですから。


――大貫さんの場合、ニッチな分野で書いていることもポイントなのでは?

そうですね。アメリカであれば飛行機は日本よりも身近ですが、日本で飛行機の話を書ける人は少ないです。車マニアで記事を書ける人は日本には多いと思いますが。

ですが、自分はそれを狙った訳ではなくて、声をかけてくれたライターさんや、その後に仕事をしていくことで繋がっていった方たちに、見出された形です。こういうのを書けるなら、ウチもお願いしますという形で。

分野に関係なく共通するスキルとしては、「読み手の気持ちや思考を想像する」ことが重要と思います。読者が何を知りたがっているか、どんな知識を持っているかを想像しないと、何を言いたいのか分からない独りよがりな文章になってしまいます。


質問 この仕事をしていて楽しいことは何ですか?

取材依頼をくださる方は、僕の記事を読んで「この人にお願いしたい」と考えて下さった方なので、僕が良い記事を書けるよう、貴重な取材の場を用意してくれます。アラブで開催されたエアレース大会で、アクロバット飛行機に体験搭乗させてもらったこともあります。そうやって、自分が好きな宇宙航空の分野で、一般人では入れない場所で取材できたり、インタビューなどで関係者と直接話をできたりするのはとても楽しいです。よく、好きなことを仕事にしたら楽しめなくなると言われますが、ライターは別だと思いますよ。
また、記事を読んでくださった方から、分かりやすい、面白い、この人の解説なら信頼できる、という感想をいただくと、非常にやりがいを感じますね。

実際にライターをやってみて、自分には人に物事をわかりやすく伝える特技があり、またそれがとても役立つ仕事でもあるということに気付きました。
世の中には情報が溢れていますが、手短にわかりやすくまとまった情報というのは、探すのが大変です。そういう文章を書いて、自分が好きな分野に関心を持ってくれる人が増えるのはとても嬉しいです。


質問 では苦労されていることは何ですか?

自分の得意な仕事を自分の意志で自由にできる半面、ひとりで仕事をしているので不得意なことでも分担はできませんから、自分でやらなければなりません。フリーランスの人は得意なことや好きなことがはっきりしているので、事務仕事などは苦手な人が多いです。

また、組織ではなく自分ひとりで仕事をしているので、自己管理が難しいです。いつ仕事をしていつ休んでもいいし、仕事時間中にさぼると怒られるわけでもないので、気を抜くとだらだらと時間が過ぎてしまいます。そうなると休日もなくなってしまうので、計画的に仕事をしてしっかり休日を作らないと、気が滅入ってしまいます。


人生を楽しむ上でも仕事をしていく上でも「仲間」は大切

質問 人生で大切にしていることは何ですか?

自分が好きなことをみつけて、それを楽しむということはとても重要だと思います。社会から、他人からやりなさいと言われたことをするだけでは物足りない。そして、その面白さを共有できる仲間を作って、もっと面白いものを作り出していくことがとても楽しいし、世の中を豊かにすると思いますよ。


質問 ライターは稼げますか?

ライターの仕事はとても多いので、仕事の「量」は安定的にあると思います。ただ、価格の高い仕事や興味深い仕事など「質」の良い仕事をしないと、収入も少なくなるし、やりがいも減ると思います。

良い仕事を多く依頼していただけるかどうかは、自分個人の評価で決まります。会社員や公務員より収入が不安定とも言えますが、所属組織ではなく自分自身を評価してもらえることは、やりがいがあります。 またライターというのは、仲間同士で仕事を回し合ったりします。仕事が多くて抱えきれなかったり、自分よりもっと得意な人がいたりする場合などですね。お互いにリスペクトし合っている、そんなネットワークは大切です。


質問 ライター職の今後の見通しや、その中での大貫さんなりの戦略を教えてください。

ネットで検索すれば多くの情報を知ることができますが、どの情報が正しいのか、信頼できるのかを判断することの方が難しいのが現代です。そんな中で、信頼できて読みやすい記事はとても必要とされていますから、そういう記事を書けるライターだと認められれば、仕事はたくさんあります。

また取材や記事を通じていろいろな分野の人と知り合うことができ、信頼を得ることもできました。もともとライターだけでなく、宇宙に関する面白いことを仕事にしたいと考えていたので、自分ひとりではできないことにチャレンジしていきたいと思っています。

大貫さんから、子ども達へのメッセージ

自分が好きなこと、興味があることを、恥ずかしがらずにどんどん楽しんでいくと良いと思います。それが仕事になるか趣味になるかはわかりませんが、何か好きなことがある人は人生を豊かに楽しめると思います。

そのためには、減点法から脱しなければならないと僕は考えています。好きなことというのは、学校の評価基準の外にある場合が多いと思うのですが、減点法で生きていると、100点を取りたければ余計なことはしないのが得策ですよね。そうすると、人生の豊かさから遠ざかってしまいます。

また、学校の勉強や、人とうまくコミュニケーションすることも同じように重要だと思います。今すぐにはなんの役に立つかわからないようなことでも、あとで「もっとやっておけばよかった」と思うことが、大人になるとよくありますから。必要になってから学ぼうとしても、なかなか時間も余裕もないものです。
僕は、最低でも義務教育でやることは無駄ではないので、ひととおりしっかり勉強した方が良いと思います。分からなくても困らないよという大人は、困らないだけのことしかしていなかっただけです。僕は学生時代に家庭教師や塾講師で数学を教えることが多かったのですが、ある子が「美容師になるから数学は分からなくていい」と言ったんですね。そのとき、「美容師を始めて、いつか自分のお店を持ちたいと考えたとき、店舗を借りて設備を整え、消耗品を買って店を経営していくのに中学レベルの数学は欠かせないよ」と伝えたら納得してくれました。
苦手なことを上手にできるようにならなくても良いので、少しがんばってみてください。その経験が役に立つときが来ると思います。



大貫さん、ありがとうございました!

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