千葉芽弓さん(ベジフードプロデューサー)
会社員時代にストレスと乱れた食生活で体調を崩したことから、マクロビオティックに出会い食の大切さに目覚めたという千葉さん。そこから食への学びを深め、カフェでパーティーメニューを作ったり、イベントを開催したりしながら実績を重ね、51歳で脱サラしてベジフードプロデューサーとして独立したそうです。
今回は、最近目にする機会の増えたヴィーガンやマクロビオティックなどの食事法について教えていただきながら、それを広めるためにどのような仕事をされているのかをご紹介いただきました。特に、食にまつわる仕事は競合が多い中、どのように初期の仕事を獲得していったのかは、とても参考になるかと思います。
また、人間の根幹にかかわる食の問題に取り組む千葉さんから見た、現代社会が抱える環境面や労働面、また経済面での「搾取」のお話は、これからを生きる皆で考えていく必要があり、食の問題を改めて考え直すきっかけになればと思いました。
プロフィール
Tokyo Smile Veggies主宰
Vegewelプロデューサー
“日本の伝統とナチュラルVeganフードを未来に繋ぐ”をキャッチコピーに、健康や環境、フードロスなど社会問題の解決や、食の多様性への対応、日本の伝統と食文化の継承のために、気候風土に則った安心安全なヴィーガンのメニューや製品の開発・プロデュース、ならびに普及啓蒙活動を行う。
食を通じた地域創生事業、食養生や食育・料理セミナーやパーティケータリング、ライター、メディア発信、イベント企画など幅広く活動している。
ホームぺージ: https://www.vegemiyu.tokyo/
Instagram: https://www.instagram.com/vegemiyu/
「Tokyo Smile Veggies」~トーキョーにベジなおもてなしを: https://www.facebook.com/tokyosmile.veggies/「Vegewel」日本初のプラントベースのポータルサイト: https://vegewel.com/
マクロビオティックわの会: https://macrobiotic-wanokai.net/
食生活の乱れから体調不良になりマクロビオティックと出会う
質問 仕事の内容を教えてください。
私は「ベジフードプロデューサー」という肩書で仕事をしていて、カフェやレストランのメニューの開発や宣伝といったことから、全体のコンサルティングまで手掛けています。その他にも、地方創生や活性化のための食の多様性対応のセミナーをしたり、無添加・無化学調味料にこだわる商品(菓子、レトルト食品、佃煮、まんじゅうなど)を開発したり、食養生やサルベージクッキングのセミナーなどをしています。食養生というのは、健康保持や体質改善のため、体質・体調に応じて栄養を考えた食事をとったり節制したりすることで、サルベージクッキングというのは捨てられるものや余っているものを使っての救済料理のことです。そして、空いた時間にレシピの開発をしたり執筆したりしています。
質問 こういった仕事をされている方というのは、自身の不調がきっかけで食生活を見直した方が多いと思うのですが、千葉さんも同様でしょうか?
そうですね。私は厳格な家庭で育ち、競争社会で葛藤を感じながら育ちました。そして外資系の大手企業に勤めはじめたのですが、仕事に忙殺される中で食生活が乱れ、様々な不調を抱えるようになったんです。それで、環境・心・食・体の関係について興味を持つようになり、沖道ヨガやマクロビオティックに出会いました。そこから全国の諸先生方に師事し、学びと実践を深めていきました。
――マクロビオティックやヴィーガンなどの食事法は、近年よく耳にするようになりましたね。
マクロビオティック=「玄米菜食」のように思われがちですが、自然の流れや秩序に沿って生きることで健全で平和的に過ごすことができるというライフスタイルそのものなんですね。その思想に基づいた食べ方がマクロビオティックの食事法で、玄米などの穀物を中心に、旬の野菜、海藻、豆などを環境に合わせバランス良く食べます。
ヴィーガンはベジタリアンの中の頂点で、はちみつやゼラチン、皮革製品も全く利用しない人たちです。私たちの世代よりは若い子たちの方が良く知っているみたいですよ。体の問題から入るというよりは、環境に対する問題意識からヴィーガンを選択するという感じです。家畜を飼育するために大量に水を使用したり、餌を作るために森林伐採をしたり、それが元で人間の飢餓につながる恐れがあるためです。
そしてもうひとつ、ヴィーガンだと卵や乳製品などのアレルギーを持つ方たちも食べられるという利点があります。年々増える食物アレルギー人口の中でも、卵と乳製品のアレルギーが6割近くを占めているのですが、こういう方たちも安心して食べられるという面でも需要は高まっています。
質問 千葉さんも全く肉や魚を食べないのですか?
普段は殆ど口にすることはありませんが、私はマクロビオティックから入りましたので、全く食べないわけではありません。お付き合いとかでは食べる感じです。絶対排除はせず自分の体に聞くようにし、食べる場合は、高加工ではない自然に寄り添った良いお肉やお魚を、必要な時やハレの日に頂くようにしています。安い肉を求めるのは人間のエゴだと思っています。
食の仕事を志して脱サラ、ベジフードプロデューサーとして独立
質問 そのマクロビオティックとの出会いが、現在の職業に結びついていくのですね?
そうですね。マクロビオティックの学びを深めるにつれ、料理の可能性を広げ、その素晴らしさを伝えたいと考えるようになりました。そこで、カフェでパーティ料理を作ったり、フードイベントを開催したり、各種レシピコンテストでの入賞実績づくりを重ねていきました。
それから、私は外資系の企業に勤めていたこともあり、海外からのゲストには必ずいるベジタリアンの方のおもてなしができていない日本は、国際都市として大きく後れをとっていると思い、どこのレストランでもベジタリアン対応をしてもらえることを目指して普及活動もしましたね。
最終的には51歳で脱サラし、今までの活動をさらに広げていきました。例えば、マクロビオティックやヴィーガン食に、ヨガやマントラ、アート、フラワー、マヤ暦、ダンスなどを掛けあわせたコラボイベントを数多く開催しましたし、食養生クッキングやサルベージクッキング、季節のおもてなし料理の教室などもやっています。
そうした全ての活動は、自然なもので自由につくる楽しさと、そこから生まれるコミュニケーションや感性を拓くこと、自己治癒力を高めて自分を信頼することを伝えたいという自らの思いに基づいています。
質問 こうした食にまつわる仕事というのは、参入する人達が多く競争が激しいように思いますが?
そうですね。私は会社員として働きながら、基盤づくりをしていました。先ほどお話したようなイベントを重ねたり、執筆したり。そういう繋がりから、仕事を貰えるようになりました。最初から収入があったわけではありませんから、独立当初はそれまでの蓄えや失業保険でなんとかしていましたし、安定した仕事ではありませんね。
質問 独立したてで仕事を獲得するのは、困難ではありませんでしたか?
何の仕事でもそうだと思いますが、最初に仕事を獲得するのは難しさがあります。やはり身近なところから、ネットも利用しながらファンを増やしていくのが良いように思います。何より大切なのは、人の繋がりとご縁ですね。自分が信念を持って活動する姿や人となりを信用してお仕事をいただき、その成果を見てまた次につながるという流れができてきました。ありきたりなようですが、大切ですよね。
あとは、自分が成そうとしていることの意義を意識することや、忍耐力なども必要だなと思います。
30代ぐらいの頃は、新しいことを始めるのに30代ではもう遅いと思っていましたが、いつからでも始められると今は思っています。定年後に新たなことにトライする方たちを見ると、自分もまだまだだなと思います。
ベジフードプロデューサーの仕事内容
質問 普段の仕事の様子を教えてください。
仕事と趣味がボーダレスで、業務も多岐にわたるため、休みはあってないような毎日です。朝は主人のお弁当作り、料理撮影、レシピ執筆やSNS発信から、業界の御用聞きとしてカフェや中小メーカーの相談役をしたり、全国のよいものを作っている生産者さんたちを応援するための出口作りや発信のお手伝いをしたり。1週間かけてカフェの立てなおしや活性化のために出張することも多々あり、忙しいですね。
質問 必須のスキルや資格などはありますか?
私はマクロビオティック師範、食育インストラクター、フードコーディネーター、食空間コーディネーターなどの資格を持っていますが、資格が必須ではありません。日本では管理栄養士でないと食の世界では活動できないと思われていますが、必要なのは、食品や栄養に関する知識や料理技術でしょうね。一番大切なのは、食を俯瞰して見る力や感性だと思っています。
質問 あると優位なスキルやキャラクターは?
おいしいものが好きで舌が肥えていることですね。食材そのもののおいしさが感じられる舌を養うには、日ごろから自然栽培や有機で育ったお野菜や、伝統発酵調味料などの自然なものを食べて、舌と五感を養うことが大切だと思います。
それから、おいしさは視覚が8割と言われます。感性が豊かでクリエイティブなことが好き、アートな発想がある、好奇心が旺盛であることも役立つと思います。
最後に健康であることも重要です。自らが不健康だったら、説得力に欠けますからね。
質問 この仕事をしていて楽しいことは何ですか?
ありきたりですが、料理を提供したときに、“わぁ”と笑顔になり、おいしいと言ってもらえることがベースになっていますね。
そして人の助けになり、喜んでもらえること。そして社会を良くすることができることでしょうね。心もからだも食べたものでできているからこそ食は大切です。それを伝えることに使命感を持っていて、世の中に安心安全なものが増えてみんながハッピーで健やかになり、笑顔が増えていったら嬉しいです。 あとは「千葉さんに頼んで本当によかった」と言ってもらえたとき。困っているお店や人に、希望の光を灯せるときが一番幸せですね。
質問 苦労されていることは何でしょうか?
仕事が多岐にわたるのに身は一つなので、常に忙しいことですね。
人を助けたいというところからスタートしているため、ついついボランティアをやりすぎてしまうし、金額交渉も苦手です。
今ではヴィーガンやマクロビオティックの社会的な認知も上がりましたが、この仕事を始めた当初はまだ知らない人が多く、飲食店で対応を頼んでも嫌な顔をされたり、どんな料理を作っていいか分からないと言われたりしましたね。そういう点で苦労がありましたね。
あとは、健康的な食事法というのはお金がかかるからできないとよく言われるのですが、日本で昔から食されてきた豆腐類や豆、乾物、雑穀などを利用することで無駄がありませんし、賢く調理すればお金はかかりません。それをぜひ知って欲しいですね。ファストフードや添加物の多い食品などは負のスパイラルを起こし、健康を損なうことでお金がかかってしまいます。
質問 この仕事を続けられる理由は?
よく先見の明があると言われるのですが、早くに時代の流れをキャッチすることや、新しいものが好きでアンテナが高いことが活きていると思います。
もともとの秘書気質で人を助けて喜んでもらえることや、画家の父の影響で芸術家気質もあるため、創り出す料理にそのアート面も生きているので、喜んでもらえていると思います。
ストレスの多い現代を生きる上で考えたいこと
質問 とても生き生きと仕事をされている千葉さんですが、最初の就職先では違ったんですか?
この仕事は、自分が自分らしく輝けることとして誇りを持ってやっていますが、それまでは違いましたね。
私の親は高い成績や偏差値を求めたため、幼少期から人と比較されて育ち、コンプレックスを抱えて生きてきました。そして30年のサラリーマン生活では、個々の資質や個性の尊重より、社会システムの中で誰もが同じ土俵に上がり、年齢とともに役職や肩書をどんどんつけて、マネジメントすることが求められました。私はもともと人のサポートを得意とし秘書を目指していたのですが、違うポジションを求められるようになり、葛藤していました。
そうしたストレスで乱れた食生活により生じた不調を、マクロビオティックを学ぶことでその解決策を見出し、食と生活を変えて体調改善することができました。そうしたら、それまでは自分のことや日々の仕事で精いっぱいだったのが、新しいチャレンジをしたいと思えるようになったんです。
「世界にひとつだけの花」という歌のように、ひとりひとりそれぞれよいところや得意なことがあり、唯一無二になることでみんな胸を張って生きていけると思います。優劣や順位などで争うだけでなく、できるだけ早くに得意なことや本当に好きなことを見つけたら強いと思います。だから、子供のころにたくさんの経験・体験をすることで“わくわく”を見つけてほしいですね。
質問 人生で大切にしているは何ですか?
現代はストレスを抱えやすく、とても生きづらい世の中だと思います。大企業でサラリーマンをしていれば毎月給料が支払われ、ボーナスもあって金銭面では安定しています。ただ、それで心身を壊す人がたくさんいます。
特に東京は、自然とかけ離れた生活で、自然界の生き物のひとつである人間が人間らしく生きられないのが現状です。私もOL時代、窓も開かないオフィスビルに缶詰になっていることに違和感がありました。
そんな中で考えていたのは、みんなが助け合いリスペクトしあう昔の日本の商店制度は、すごく良かったのではないかと。電気屋さんは八百屋さんをねたんだりしないし、足を引っ張りあうこともない。お互いに尊び、餅は餅屋と任せ合っていて、平和だったなと。みんながスーパーマーケットになろうとするから苦しくなるんですよね。
そうして現代の偏った価値観に囚われて生きている人たちを救えたらいいな、みんなが笑顔で自分の人生を自分らしく生きられたらいいなというのが、私の活動の基本になっています。そうして喜んでくれる人がいて、笑顔が増えたら、お金はきちんとついてくると思っています。
質問 稼げますか?
たくさんのお金は稼げないかもしれないです。
というのも私は、お金を多く稼ぐことには、ある種の「搾取」があると思っているんです。例えば私が以前勤めていたスピーカーを作っている会社で言えば、スピーカーなんてそう買い替えるものではないのに、新しいモデルを数多く、しかもそれを耐用年数が短くなるように作れば一番儲かります。消費者を搾取しているように思いませんか?
それを食品で言えば、安く大量に作って消費者にどんどん買わせるのが儲かるわけですが、安く何かを作るのは、環境も搾取し、労働者の搾取にもつながり、ヘルシーではないことで消費者の健康も搾取することになります。
私は、正しいモノを正しい価格で作っていないところには、搾取があると考えているので、私の仕事がたくさんのお金は稼げないことは、マイナスとはとらえていません。対価をもらえて、暮らすのに困らなければ十分だと思います。
――暮らすのに困らなければ十分だというのは、幸福に暮らすための大切な心の持ちようですよね。
以前は違いましたけどね。バブル時代も経てきたので、かつての私はブランド物を買いあさり、着飾ることで武装していましたよ。ですが、今はそんな必要もないし、心地よく生きられたらいいなと思っています。
よくお金がないから食費を削るとか、ワンコインランチとか聞きますが、エンゲル係数は落とすべきではないと私は思います。OL時代はファストフードや菓子パンでランチを済ませていたんですが、満腹でも心は満たされないし、アレルギーや体調不良に悩まされました。 「You are what you eat(あなたはあなたの食べたものでできている)」という格言があるのですが、その通りだと思っています。人間の三大欲求の食を、“本物”で満たすことはとても大切です。食費ではなく他を節約すれば大丈夫です!
質問 今後の見通しや、その中で千葉さんが生き残るために考えている戦略などを聞かせてください。
私は活動をスタートした2014年から、日本各地の名産や地元の食をヴィーガン(動物性食品を使わない)で、と言い続けてきました。当時は、この仕事のプレーヤーは希少でしたが、昨今はとても増え、競合が多いのも否めません。
ですが、コロナを経てインバウンドが戻ってきているため、今後は一層、ヴィーガンであったりハラルであったり、食事制限を抱える人たちへの対応が求められると思います。また、健康や免疫に対する意識や、SDGsの流れで環境負荷の高い肉食を減らそうという動きや、食糧危機がささやかれる中で足下にある食を見直そうという意識も強くなってきているので、ニーズは増えていくと思います。これからも想いを大切に、やってきたことを一貫して続けていきたいと思っています。
また、日本の食料自給率の向上のためにも、自然栽培や有機栽培の農家さんや、いいものを作る生産者さんたちの出口作りを支援し、フードロスの削減にもより注力していきたいです。
世の中ではヴィーガンブームで新しいお店もたくさんできて、ファミレスからファストフードまでヴィーガンメニューが増えましたが、一方で、実直にいいものを提供し続けてきた老舗が、食材やエネルギーの高騰などで閉店する例が増えてきています。コロナの給付金がなくなったいま、飲食店からのSOSは増えると思っているので、長年の経験を生かして、じっくり寄り添いリブランディングすることで、お手伝いできたらと思っています。
千葉さんから、子ども達へのメッセージ
自分の人生は自分のもの。だから本当の自分を生きて人生を謳歌するために、好きなことややりたいこと、心躍ることを見つけてくださいね。
わくわくの先には未来があります。
そのために、視野を広げて色々なところに行って、色々な人に会って、たくさんの経験を重ねる。やりたい、行きたいといった心の声に素直になって動いてみてください。
人の物差しや価値判断基準を気にしたり、親の顔色ばかり見たりするのではなく、自分の好きなものを好きと言う、嫌なものは嫌と言う。常に素直であればきっといいご縁がつながり、楽しい毎日が過ごせるはずです。
旅はいいですね。日本は狭いけれど各地、そこにしかない素晴らしいものがたくさんあります。
1人で悩まず、信頼できる理解者を見つけておくのも大切です。
この世に命を授かっただけでもオンリーワンの宝物なのですから。
千葉さん、ありがとうございました!