加藤渉さん(セレクトショップ経営者)

25歳の時に開業したセレクトショップを皮切りに、現在は美容室や脱毛サロンまで経営の幅を広げている加藤渉さん。今回のインタビューでは「服屋さん」という仕事の中身を紹介していただくとともに、起業当時から今にいたるまでの経緯もお話いただきました。

加藤さんが起業してからの20年は、アナログな売り方から現在のEC全盛期を迎えるまでの20年とピタリと重なるわけですが、ネット時代のリアル店舗の生き残りかたについての心構えは、店舗ビジネスに興味のある方は必読です。今となってはネットでポチポチ…ばかりですが、対面で店員さんとやり取りしながらの買い物は、会話も付加価値だよなぁと、コロナ禍で最小化する流れにある店員さんとのコミュニケーションについて考えるきっかけにもなりました。
また、加藤さんが商売をする上で、何を大切にすることで、いま生き残ることができているのか?そして、初期投資のかかるリアルな店舗を持つリスクに対する不安を、どうして乗り越えられたのか?といった、起業家の心の持ちようのヒントとなるお話も勉強になりました!

最後に、お子さんを持つ親として、大学には進学していない加藤さんがお子さんには行ってほしい理由を「将来の選択肢はたくさんあった方がよいから」とおっしゃっていたのが印象的でした。それは一つの道で失敗しても別の道に行けたり、スキルの組み合わせで新たな強みを生み出せたりすることが安定につながるという、「めしのタネ」の理念にもつながるところがあって、「服屋さん」という一貫性がありながらも、いろんなやり方を思考錯誤し、利益を得られる他の要素を取り込もうとする加藤さんの柔軟性が反映されているなと思いました。

プロフィール

株式会社CLOAK 代表取締役

高校在学中にアパレル店でアルバイトを始め、札幌への進学中もジーンズ店でアルバイトをする。帯広に戻りコムサデモードに勤め、セレクトショップ立ち上げにマネージャーとして勤務したのち独立。
現在はセレクトショップ(帯広2店、釧路1店)に加え、美容室&脱毛サロンを運営し、他社のデザイン業務も請け負う。

PIECE ROCK STORE / PIECE ROCK STORE(@cloak_obihiro)
LUCY obihiro / LUCY-obihiro-(@lucy_obihiro)
LUCY kushiro / selectshp LUCY-kushiro-(@lucy_kushiro)
salon DIG/IT / salon DIG IT(ディグイット)(@digit_obihiro)

セレクトショップを経営する仕事

質問 加藤さんの仕事の内容を教えてください。

そうですねぇ、説明するとなると結構難しくて、いつも困っているんです…。
みなさんのイメージする服屋さん、つまり洋服を仕入れてお店で売るという、いわゆるセレクトショップは、開業当初からしているので、「職業は?」と聞かれれば「セレクトショップの経営者です」と答えます。
ただ、服屋というと外から仕入れたものをお店で売るだけですが、僕のお店はデザイン会社を置いて一緒に洋服をデザインし、それを東京に持って行ってコレクションを発表するということも、現在は休止中ですが10年ほどしていました。そこでは、全国のセレクトショップのバイヤーや著名人(タレント、役者、アスリートなど)に見ていただいて、洋服を卸したり、TV番組や映画、音楽のPVなどで着てもらったり。


質問 外から仕入れてお店で売るだけではなくて、作ったものを外に売ることもしているわけですね。

そうやって売り物を作っていたことで、アパレルデザインで培ったスキルを徐々にグラフィックのデザインにも活かせるようになり、地元の飲食店やサロン、サッカーチームなどのデザイン業務を請け負ったりもするようになりました。
現在では、美容室や脱毛サロンなども経営していたり、地元のFM局で番組を持って話したりで、忙しくしています。

PIECE ROCK STORE

質問 手広いですね!

生きていくために必死ですよ!!


質問 普段の仕事の様子を教えてください。

月に2~3回ぐらいは東京に行き、たまに海外へも行ってバイヤーとしての仕事をしています。他はお客様への接客やデザイン、ブランド資料チェック、店内セッティングといった感じでしょうか。あとはSNSにコーディネート例として洋服を着用した写真をアップしたり、インスタライブをやってリアルタイムで商品の説明をしたりといったこともしています。その場で予約を頂いたりするので、これは結構有効なツールです。


質問 洋服屋になりたいという子にアドバイスをするとすれば?

お客さんと接する仕事ですので、なによりコミュニケーション能力が重要ですね。明るくて話が好きな方に向いています。いろんな個性を長所に変えられる仕事だと思いますよ。

LUCY kushiro

25歳で独立

質問 加藤さんは色々なお店で経験を積み最終的に独立されていますが、独立の理由やきっかけを教えてください。

高校時代、そこそこの進学校に通っていたので、周りのみんなは大学に行ってホワイトカラーを目指すような雰囲気だったんです。でも僕は、ペーパーテストは割とできた方でしたが、やりたいことがない子だったんですよね。社会を生き残るような先見の明があったり、物事を応用していったりするような賢いタイプでもなかったし。

そんななかで、小学生の頃から漠然と洋服に興味があったので。アパレル店でバイトを始めたんです。そのときの店長が当時17、8歳の僕を認めてくれ、ショーウィンドウのコーディネートを任せてくれるようになったんです。スーツなどの割とカチッとした洋服を扱うようなお店でしたが、それに古着っぽいものを合わせたりといった変わった提案をしていたら、2~3ヶ月で客層やニーズが変化していったんです。それに当時の僕は衝撃を受けて、感動してしまった。
そうしたら、「4年間の大学を時間つぶしにしてしまうよりは、この道を突き詰めたい」、「僕の特技はこれだから、これで勝負したい」と思い込んでしまった。それが独立する25歳までずっと引っかかっていたので、きっかけは高校時代のアルバイトだと思います。

でも、起業の仕方なんて、全く分からなかったですけれどもね。当時は携帯電話もインターネットも今みたいに普及してなかったから、簡単に調べられるわけでもなく、独立するまでは本当に大変でしたよ。

僕は、運が良かったと思います。店舗も在庫もあるような起業ってリスクがあるから。今なら誰もやりたがらないですよね。マンションの一室でスキルを売ってお金を稼ぐのをよしとする時代じゃないですか。でも僕は、モノを仕入れて売るというアナログな稼ぎ方しか知らなかったんです。それで生き残ってこれているのですから、本当にラッキーだと思いますよ。


質問 独立するにあたって、怖さはありませんでしたか?

それはありましたよ。
でも、思っていたより25歳という年齢が武器になりました。というのも、それぐらいの年頃って、周りの子たちが車を買うのに200万とか300万とかローンを組むじゃないですか。あの感覚で、車を買うぐらいなら、僕は同じくらいの金額で夢を買おうと思ったわけです。最初はうまくいくとも思っていませんでしたからからね。

そもそも、お金を借りることすら知らなかったんですよ。税務署だとか、納税のことも知らない。あるのは、ハコとモノを用意してお店をするんだっていうことだけ。若いと、分からないことを聞ける人も身近にいないから苦労したんですが、逆に、いろいろと無知だったからやれたのかなと思います。

LUCY obihiro

質問 加藤さんがそうした苦労を乗り越えられた理由、そもそもそういったリスクのある起業に踏み込めたのは、どうしてだと思いますか?怖いもの知らずな性格ですか?

いやー、、、元からメンタルが強いわけではなく、ガラスですよ。寝るときに思い出して、悔しがったりしてる(笑)。

僕は、作戦を立てるのが得意なタイプではなくて。戦略家ではない。独立したときに、周りに自営業の方がいなくて成功のモデルケースがなく、お店を単に出しただけっていう状態だったんです。だから売れなかったし、暮らすのもきつかった。1年ぐらいは、手取りが4~5万とかだったので。
でも、根拠のない自信だけはありましたね。この仕事が好きだから続けたくて、そもそも初期投資のお金も「自分の仕事を買った」という感覚でしたしね。僕は現金で最初のお店を作りましたが、そのために出稼ぎをしたんです、携帯電話の精密機器を24時間2交代で作る工場に。そこで作ったお金でスタートしたので、これより悪くなることはないよなと思っていたので、起業がリスクで怖いという感覚はなかったですね。


質問 確かに「夢を買う」という感覚が起業にはありますよね。

僕の起業がきっかけとなったというか、また、若手の起業家を支援しようという時代の動きもあったのか、開業してから10年ぐらいで、帯広市内で商売する若手が増えたんです。僕も商工会議所に呼ばれて、若手に指導してくれと言われたり。
そうしているうちにライバルがどんどん増えていったんですが、最後まで諦めないで残っていたら勝てるかなと、漠然と思っていました。商売は「あきないで(飽きないで)」やれよと言いますが、愚直に飽きずにやり続けようと決めていたんですね。そうしている間に、パイは変わらないのに競合が先にやめていくので、こうして生き残ってこれました。意固地になっていただけかもしれませんが、借金しても続けようと思っていました。
僕はカッコつけなので、やめるとか後退するというのはしたくなかった。天邪鬼。逆張りの精神なんですよ。コロナ禍で攻めちゃうのは、僕の性格なのかなと思います。この2~3年でめちゃくちゃ攻めたおかげで、年商は50~70%は上がりました。3年目は攻めずに落ち着いて、中のソフト面を強くしようと取り組んでいます。

やっと頭を使うようになりましたね(笑)。

salon DIG/IT

大学に行っても良かったかなと思うこと

質問 加藤さんは自分は賢くないとおっしゃいますが、そうして臨機応変に物事に対応できることこそ賢さだと思います。

いま考えると、最終的に同じ業界に進んだとしても、大学に行って、職業を選べるだけの場所にいられれば良かったなと思います。この仕事が嫌だと言うわけではありませんけれども。


質問 今のお仕事をしていて、大学で学んでいた方がプラスになっただろうと思うことがあるんですか?

僕は進学校から学力を要しない専門学校に入り、2年で終わらせて社会に出て、少しして独立しました。なので、顔と名前を覚えてもらえるよう街を出歩いて、人のいるところに絶えず行っていました。何を買うかというより誰から買うかが重要で、自分を知って貰わないと売れないというのを、肌で感じていたというか。進学校だった高校のコミュニティではなく、放課後に一緒に過ごしたやんちゃなコミュニティ、その人脈が起業してから役に立っているんですよね。
なので、大学で勉強するというよりは、大学で出会うコミュニティに興味があるんです。僕は、出会いに助けられてきたので。

リアル店舗でモノを売ることの未来

質問 お店を立ち上げた当初と今とで、モノを売る環境は大きく変わっていますが、その辺りはどのように考えていますか?

いま独立してから21周年ですが、確かにやり方は変わっています。当初はSNSという手段もなかったですし、お客さんのメールアドレスを聞いてBccで送ったり、ハガキを作って送ったり、地元のフリーペーパーにコラムを書かせてもらってアピールしたり、とにかく何でもやってコツコツと育ててきました。

ですが、今でもネット販売はやっていません。ネット販売にしてしまうと、結局1円でも安いところで買うわけで、商品をどう使ってどう楽しんでもらえるかといった、僕らの得意としている提案をうまく伝えられないと思うんです。EC専門のスタッフが居ればいいのかもしれませんが、いまのスタッフには対面販売をおろそかにして欲しくないですし。
お客さんとのこれまでの付き合いから、好みや傾向が分かっているので、仕入れについても、トレンドのものばかりを集めるのではなく、お客さん達の顔を思い浮かべながらしています。
僕たちからの提案も、それぞれのお客さんの傾向に合わせつつ、それが新たな発見につながり、ワクワクする気持ちも提供できるように心がけています。ECサイトがビックデータを使ってやっていますが、提案というのはとても難しいので、そこをきっちりできれば勝てると思っているんです。
またそれだけでなく、お客さんがちょっと立ち寄って、仕事の話だったり彼氏彼女の話だったりができる、エンタメ的な要素も含めたサービスとして売るのが自分たちの得意としているところなので、ネット販売には手を出していません。

僕らはただモノを売るだけの「セールススタッフ」ではなく、「サービススタッフ」でありたいと思っています。


質問 加藤さんが苦労されていることはありますか?

出張が多くなるので、予想より体力が必要ですね。
それに、ファッションは需要の変化が速いので、常にアンテナを立て続けていなければならないため気を使います。僕たちの仕事は資格が要るものではありませんが、ファッションに関する知識やトレンドの推移などの動向を、絶えずチェックする必要がありますので。

あとは地方店なので、あまり高価格なものは売りにくく、かといって低価格なものは量販店に負けてしまうので、商品を厳選しなければならないところに難しさを感じます。

加藤さんから、子ども達へのメッセージ

「卵が先か、鶏が先か」じゃないですが、「お金が先か、喜びが先か」と考えても、順番はどっちでも良く、やはりどっちも大切なんだなぁとは思います。
ただ、先人が言うように、目先の儲けだけで動くのは、飽きて長続きしないと思うんです。そう考えると、長期的には、楽しくて喜びを感じる仕事のほうが良いのかもしれません。

やりたい事があるのなら、お金は後からでも十分できるので、まずはそれに向かうのがいいと思います。
やりたい事がないのなら、まずは一生懸命勉強をして、たくさんの職業を選択できるように準備をしておいたら良いと思います。
それから、やりたい仕事の中にも、やりたくない事はあるし、またその逆もしかり、です。

私も子育てをしていて思うのですが、学歴ではないよと言っても、中卒で選べる職業の幅と、高卒で選べる幅、大卒で選べる幅って違いますよね。
僕はたまたま高校在学中に洋服屋になると決められたから良かったですが、例えば、大学を卒業することでテーブルにたくさん自分の駒を用意して選べるようになれば、やりたいことが出来る可能性が増えるし、もしその一つの駒で失敗したとしても、他の駒でやり直しができる。それに、得られるものは学力もありますけど、人とのつながりを得られます。
例えば、自分に一つのコンテンツしかなければ、ありふれたサービスしか提供できませんが、複数のコンテンツがあれば、組み合わせで新しいサービスを生み出せる可能性がでてきたり、異業種に入り込むこともできたりします。とにかく子どもには、テーブルに駒をいくつも並べられるようになってほしいなと思っています。


加藤さん、ありがとうございました!

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